ウイスキーの熟成:
カスクがすべてを左右する
原酒の熟成からさまざまな樽の使い分けまで、 カスクフィニッシュの世界をご案内します。
ウイスキーの魅力を知り始めたばかりの方は、「カスクって何だろう」という疑問が頭をよぎるかもしれません。ご心配なく。これからご説明します。カスク(樽)とは、スピリッツやワインを熟成させるために使用される、木や金属の輪で縛られた大きな木製の容器のことです。カスクフィニッシュとは、ウイスキーを熟成させるために入れる樽のことであり、最初の熟成の後にさらに時間をかけることを指します。
ウイスキーは常にカスクの中で熟成されますが、カスクフィニッシュは最終的なフレーバーに大きな影響を与えます。スコッチウイスキーはラベルに記載された期間(最低でも3年)熟成されますが、その後、ワインやシェリーなど他の蒸留酒の熟成に使用されたカスクでさらに時間をかけることがあります。ラムカスクのような他のスピリッツのカスクでウイスキーを熟成させた場合、ラムの風味を引き継ぐのではなく、カスクがウイスキーの風味を高め、ラムに含まれるトロピカルフルーツのような香りを引き出すということを知っておくことが重要です。
ウイスキーの種類やカスクフィニッシュについて調べていると、シングルカスクとダブルカスクの違いについて知りたくなるでしょう。シングルカスクとは、ウイスキーが1つの樽のみで熟成されることを意味します。一方、ダブルカスクやトリプルカスク(およびそれ以上)は、ウイスキーがさまざまなカスクで熟成されることを意味し、以前は別のスピリッツの熟成に使われていたカスクが使われることもあります。
カスクフィニッシュが何であれ、ウイスキーの熟成には欠かせないものです。
シーバスリーガルのマスターブレンダーであるサンディ・ヒスロップに、カスクフィニッシュとシーバスリーガルシリーズにおけるカスクフィニッシュの役割について聞きました。
カスクフィニッシュにはどのような種類がありますか?
「ウイスキーの熟成行程において、選択的仕上げと選択的熟成の違いを理解することは重要です。選択的仕上げを行う場合、そのウイスキーの一部を取り出し、元テキーラカスクや元ライカスクなど、空になったばかりの樽に詰めます。カスクはそれぞれ異なっており、風味が一定のレベルになるまで同じ時間がかかるわけではありませんので、風味の変化を確認するために定期的にブレンドをモニターします。ブレンディングルームでは、実際に手を動かして、オーダーメイドのプロセスを行うのです。
「選択的熟成では、ブレンドはそのカスクで全熟成期間を過ごします。シーバスリーガル エクストラ 13年 オロロソシェリーカスクでは、ブレンデッドスコッチウイスキーの一部がファーストフィル(初使用)のオロロソシェリーカスクで13年間熟成されます
カスクフィニッシュ(仕上げ)を考えるとき、そのカスクの過去を考慮することが重要です。15年以上になるような長期熟成の場合、セカンドフィルやサードフィルのカスクを使うと、カスクの影響と蒸留酒(熟成前のウイスキー)の特徴との間で素晴らしい風味のバランスをとることができます。蒸留酒がファーストフィルカスクで長期間熟成されると、カスクの影響が強すぎて、完全に支配されてしまう可能性があります。しかし、若い熟成年数の場合、ファーストフィルカスクはカスクの風味を短期間に伝えるのに理想的です」
シーバスリーガルにとって、カスクフィニッシュはなぜ重要なのでしょうか?
「選択的仕上げであれ、選択的熟成であれ、どの工程もシーバスリーガルウイスキーの特徴ある個性を引き立てるようにしたいと思っています。競合したり、圧倒したりしないようにしています。特にシーバスリーガル エクストラ 13年シリーズでは、シーバスリーガルでありながら、さらに一歩踏み込んだものをつくりたいと考えています。
シーバスリーガル エクストラ 13年シリーズの各製品は、目指すカスクフィニッシュを促進し、特徴を出すために、独自のベースブレンドを持っています。私たちは、カスクの影響がどれだけ強いかによって、これらのウイスキーを選択的仕上げを行うのか、選択的熟成を行うのかを決めています。例えば、ラムカスクやテキーラカスクでウイスキーを完全に熟成させることはできません。なぜなら、カスクの香りが強すぎて、ウイスキーが圧倒されてしまうからです。ウイスキーは重厚で強いものだと思われていますが、案外デリケートなものです!他の重厚な蒸留酒に圧倒されることもあるのです。
私たちは、すべてのカスクフィニッシュで、フレーバーのニュアンスを求めています。ブレンドにさらなる複雑さをもたらしながらも、シーバスリーガルのクラシックなスタイルを提供したいのです。シーバスリーガルは甘くフルーティなことで有名ですが、それを引き立てるためにオークのナッツの香りが必要です。一方、強すぎるカスクで完全に圧倒してしまうのは好ましくありません。バランスが大事なのです」
カスクはどれほどのフレーバーを与えるのですか。またその理由は?
「カスクの影響によるフレーバーの度合いは、ウイスキーを熟成させる時間によって異なります。ウイスキーがカスクに長く入っていればいるほど、カスクから吸収されるフレーバーは多くなります。15年という長い熟成期間になると、フレーバーの約50%がそのカスクから来るようになります。また、そのカスクが何回使用されたかにもよります。3回目、4回目、5回目使用のカスクであれば、それほど多くのフレーバーをもたらすことはありませんが、ファーストフィル(初使用)カスクであれば、多くのフレーバーをもたらすことができます。
シーバスリーガル エクストラ 13 Tequila Caskのようなシーバスリーガル エクストラ 13シリーズの選択的仕上げによる製品は異なっています。ウイスキーが従来のオークカスクで13年間熟成され、その後、さらに別のカスクで一部が熟成されているためです。推測ですが、フレーバーのおよそ35~40%は13年熟成によるもので、その後、使用した別のカスクによって10~20%の効果が加わっています。2段階のプロセスということです」
スコッチの熟成とバーボンの熟成はどう違うのですか?
「バーボンは、バージンアメリカンのオーク樽あるいはカスクで熟成させますが、このカスクは他の蒸留酒を一度も入れたことがないものです。つまり、バーボンはカスクや木材の影響が大きいのです。一方、スコッチでは、過去に他の蒸留酒を貯蔵したことのあるカスクを使用します。まるで、私たちのためにカスクが調整されているようであり、強いタンニンを含むオークのフレーバーを取り除く機会を得たかのように、蒸留酒をより際立たせてくれるのです。また、このカスクは甘いバニラやトフィーの香りを持ち、ブレンドに使われるスペイサイドのウイスキーの甘いキャラクターと見事に調和します。
シーバスリーガル エクストラ 13 Bourbon Caskは、シーバスリーガルブレンドの一部を13年間、バーボンカスクで熟成させています。これはバーボンの味わいにするためではなく、蒸留酒の中にすでに存在する甘くハチミツのようなフレーバーを強調するためです。
お気に入りのカスクフィニッシュとその理由は?
「シーバスリーガル ミズナラが好きです。マスターブレンダーである私にとって、日本に行って樽の製造業者と会い、契約を結び、カスクをスコットランドに持ち帰ったことはまさに夢のようで、シーバスリーガル ミズナラを製品に加えられたことはとても嬉しいことでした。私は、ゆっくりと溶ける大きなアイスボールやキューブアイスを入れて飲むのが好きです。アルコールと水分の反応が完璧です!」
ウイスキーの製法についてもっと知りたい方は、シングルモルトとブレンデッドウイスキーの違いやブレンド術についての記事もご覧ください。